30年ぶりにトロントに登場する、新デザインのストリートカー

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写真は今年の「ドアズ・オープン」で公開されたトロントの新型ストリートカーの後ろ姿。試験走行を終え、いよいよ8月31日(2014年)より運用が始まります。

本日(8月20日)TTC公式ムービーが公開され、いよいよ正式運行まで秒読み段階に入りました。

振り返ってみると、トロントの街に交通システムが誕生したのは今からおよそ165年前のこと。「Williams Omnibus Bus Lines」と呼ばれる会社がトロントで営業を始めたのが1849年。「Town of York(現在のブロアとヤングの交差点付近)」とセントローレンス・マーケット間を、「Omnibus(オムニバス)」と呼ばれた「馬車」を走らせていました。

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ロイヤルオンタリオ博物館には、当時を伝える絵画が残されています。これはちょうどオムニバスの終点であるセントローレンスマーケット周辺。現在のジャービスとキングの交差点付近です。

オムニバスのルーツは、1824年のイギリス。John Greenwoodが始めたサービスが人気を博し、2年後にはアメリカのニューヨーク、ニューオーリンズ、ルイジアナを中心に主要な交通手段として導入されました。

当初は一頭の馬が引く馬車に運転手が1名、4人〜6人乗りという大変簡素なものだったようですが、普及するにつれて多くの乗客を運ぶ需要が起き、より少ない力で多くの人を運ぶことができる客車をレールの上に乗せ、馬で引く「ストリートカー」が登場。当初は馬の数を増やすことで対応していましたが、より強力な力で客車を引く必要が出るほどになりました。

選択肢として選ばれたのは、ワイヤーを使って客車を引っ張る「ケーブルカー」。ケーブルの敷設工事と動力の確保に費用がかかるという難点がありましたが、1873年にアメリカで最初のケーブルカーが走りはじめると、1890年にはシカゴを始めとする主要都市で普及するようになります。

もう一つの選択肢は、電力を使うもの。ドイツのベルリンでシーメンスによって発表された「Electromote(エレクトロモート)」は馬車に電気モーターを搭載し、電柱に支えられた電線から電気を供給しながら走行する画期的な発明でした。この技術は後に「トロリーバス」として普及して行きます。

1886年に、発明王トーマス・エジソンのもとで働いていた技術者フランク・スプレイグは、安定した動力を供給できるDCモーターを実用化。その後電気を供給する架線に関する技術を確立します。1888年以降には、蒸気を使った発電所が供給する電力を架線を通じて移動する客車に伝えて電気モーターを動かすというシステムが、アメリカで確立します。ストリートカーはこの技術を導入して「トロリーカー」という名称で営業を始めることとなります。

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トロントで電気式のストリートカーが走り出したのは1892年のこと。現在保存されているレトロな「Peter Witt streetcar」は、1921年〜25年にかけて575台が納品され、60年代までトロントの街を走っていた花形車両。美しく復元されている車両を見ると、今でも現役で走ってもらいたいと思うほどです。

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その次の世代として導入された流線型の「PCCカー(写真手前の茶色い車両)」は、貸し切りのイベント列車として街中で特別運行をする時があります。

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現役車両はその後導入された「ARTICULATED LIGHT RAIL VEHICLES (THE ALRVS)」と「THE CANADIAN LIGHT RAIL VEHICLES (THE CLRVS)」。いずれも1970-80年代に製造されたため、車両の老朽化が問題となっていました。さらにダウンタウンの慢性的な交通渋滞は悩みの種で、その原因と言われるストリートカーは、「存続問題」と共に常に新聞紙上をにぎわす話題でもありました。

TTCは議論の末ストリートカーの存続問題に終止符を打ち、新型車両の開発が2009年よりスタートします。昨年9月よりテスト車両が試験走行を繰り返していましたが、いよいよ8月31日よりスパダイナ線で運行を始めることが決定。世界でもユニークなストリートカーの歴史に、トロントが新たな1ページを加えることになったというわけです。
https://www.ttc.ca/Routes/510/Southbound.jsp

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「Flexity Outlook」という型番で呼ばれるカナダのボンバルディエ社製は、赤と白の「TTCカラー」は変わらないものの、スタイリッシュなデザインが街に映えます。

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「よりスムーズで静かな走行」とうたう自慢の新型車両は、低床型。最大のメリットは、これまで階段を2段上がらないと乗車できませんでしたが、新型車両では地面と車両の床は最低限に抑えられた上階段がなくなり、乗り降りがラクになりました。
このため、これまで不可能だった車いすでの乗降が実現しました。専用の呼び出しボタンを押すと運転手の補助により専用のスロープが出て来て、車いすのまま乗り降りができるようになった点が大きく違うところです。

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写真上は新型車両の運転席。従来はドアから入ると正面が運転席というオープンな作りでしたが、透明のドアで仕切られて独立した個室となりました。そのため、車内と各ドアに設置されたカメラからの情報が運転席のモニターに表示され車両の様子が監視できるようになり、非常時には専用のインターフォンで会話をするといった変更が加えられ、同時にセキュリティーも強化されています。

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車内では駅名のディスプレイ/録音によるクリアなアナウンスが行われるのは、ここ数年行われているTTC全体のアップグレードに沿ったもの。車いす用のスペースも作られました。

乗車の際の支払いですが、現時点での発表は以下の通り。
(1)キャッシュ、チケット、トークン等従来の方法
(2)スマートカード(PRESTOなど)
(3)チケットの自動販売機
(4)POP(proof-of-payment)

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写真のように、PRESTOのプリペイド型カードが、ストリートカーに導入されます。

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使い方は、カードをグリーンの端末に軽く触れるだけ。あらかじめデポジットした金額から差し引かれるものです。

現時点でPRESTOカードはユニオン駅でしか購入できず、カードのチャージもオンラインあるいはユニオン駅の窓口でしかできないなど普及の途中ですが、来年営業を開始する「UP EXPRESS(アップ・エクスプレス)」もPRESTOカード対応となるなど今後普及は加速される予定です。PRESTOの詳細については、下記ブログも参照して下さい。
https://seetorontonow.jp/?p=382

先にご紹介したように新型車両では運転席が透明なドアで隔離されるため、これまでのように乗車時に運賃をボックスに入れ、運転手からトランスファーを受け取るという流れが変わりそうです。事前の発表では、新型のチケット自動販売機が搭載されるとありますが、詳細の発表はありません。
また4つのドアが同時に開き、これまでのような検札が行われないため、POPが採用されます。これは運転手が乗客に対し、乗車賃を支払ったことを必要な時に確認することをあらかじめ約束するもの。現実的にどうなるのか、運行が始まれば詳細は分かってくるようです。

トロントのような新型ストリートカーが走っているのは、世界中を見回すとバレンシア(スペイン)、インスブルック(オーストリア)、アウグスブルグ(ドイツ)、マルセイユ(フランス)、ブリュッセル(ベルギー)の5都市のみ。今回トロントがこれらの都市に加わることになります。

どんなにスタイルが変わっても、一つだけ変わらないものがあります。それは走行中に架線から電源を取り入れる「トロリー」スタイル。1800年代後半に考案されたあの形は、これからも受け継がれて行くのですね。

世界でも珍しい新型ストリートカーを北米で唯一トロントで体験できる。8月31日(2014年)からスパダイナ線で運行が始まりますので、トロントにご旅行の際は是非乗ってみてください。