トロントでジオツーリズム入門

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ジオツーリズム(GEO TOURISM)ということばを聞いたことがあるでしょうか? 美しい風景を中心にする従来の観光とひと味違う、1990年代に提案された観光の新しいカタチ。簡単にまとめると、訪れる場所の風景を作り出している土地の由来を学び、環境を保護したりそこに住む人々の暮らしに触れる観光を通して、持続的な環境保護へも関わりを持つ、と言えるでしょうか。

そのため、目的地へ向かう前にその土地のユニークさについて学ぶということが行われるのが特徴。ナショナル・ジオグラフィック誌がこの活動に熱心で、過去にトロントのある場所が2009年のジオ・ツーリズム候補地のファイナリストに選ばれました。
http://intelligenttravel.nationalgeographic.com/2009/07/28/geotourism_finalists_announced/

今回ご紹介するのは、世界でも大変ユニークな場所として唯一トロントでジオツーリズムが体験できる「Evergreen Brick Works」。

カナダ盾状地に接続する地質学的特徴

タイトルはちょっと難しい印象ですが、カナダは世界でも珍しい「地球最古の岩盤」が地表に露出していることで有名な国。オーロラで有名なイエローナイフのあるノースウエスト準州北部で発見された「Acasta Gneiss」という岩石は、今から約42億年前(地球の年齢は45億年前)にできたカナダ盾状地(Canadian Scield)の中で発見されました。

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「Evergreen Brick Works」の地中深くに存在する岩盤はこのカナダ盾状地に接続する、400万年前にさかのぼる大変古い地層。当時のトロントは海の底でした。その海の中で、ゆっくり堆積(たいせき)してできた頁岩(けつがん)と呼ばれる岩石が、「Shale(シェール)」という地層。この名前は、今世界で話題になっている「シェール・ガス」で一躍有名になりました。

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その後、2度の氷河期を経て、カナダ盾状地から氷河の浸食作用で土砂が流れ込み、何重にも地層を作り出して行きます。地球に訪れた最後の氷河期である「ウイスコンシン氷河期」が終わる今から1万2千年前、この地層は溶け出した氷河によって削られ、典型的な氷河でできた谷をつくりだします。

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周辺には支流が多く、5月をすぎると一面緑におおわれ、10月をすぎると毎年美しい紅葉がはじまることで有名です。実は氷河の浸食作用は、トロントの東側にあるスカボロー・ブラフと呼ばれる絶壁やトロント・アイランド島、ナイアガラの滝などオンタリオ州の広い範囲に渡ってみることができるものです。
参考ブログ:https://seetorontonow.jp/?p=1950

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こうした地層の成り立ちがくわしく分かるようになったのは、トロントの地質学者A.P. Colemanの1926年の調査・研究によるものですが、彼が調査を行ったのが「Evergreen Brick Works」の「North Slope」と呼ばれる場所でした。

こうしたユニークな地理的な特徴については、セルフツアーが提案されていて、ステップを踏んで理解できるように作られています。詳細は下記のウエブサイト(英語)を参照してください。
http://www.evergreen.ca/downloads/pdfs/EBW-Geology-Tour.pdf

トロントの街の発展に深く関わる歴史

トロント市が誕生してまもなく街の人口は急増し、中心部には多くの建物が建ちはじめますが、同時に2回の大きな大火「Great Fire of Toronto(1849年/1904年)を経験します。当時は木造住宅が多く、居酒屋や工場から出火すると火はすぐに燃え広がり、特に1904年の大火はダウンタウンの中心部が数時間にも渡って火に包まれ焼け落ちるという悲惨なできごととなりました。

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Front Street West, looking east from Bay Street
April 1904
Photographer: W.J. Whittingham
City of Toronto Archives
Fonds 1408, Item 2

トロントの大火については、下記トロント市のウエブサイト(英語)にオンラインギャラリーがあります。
http://bit.ly/1IAHDr0

この悲惨なできごとを受け、トロント市は焼け野原となった中心部に建てられる建物はれんが造りとすることを決めます。この時トロントは、建設資材として必要となる大量のれんがをどこから得るかが大問題となりました。

大火が起きる約50年前、John Taylorという人物が、イギリス中西部のスタッフォードシャー(Staffordshire)からカナダに移住してきます。19世紀の中頃はイギリスから多くの移民が北米に向かって渡って来たのですが、彼もその中の一人でした。

彼はドン川のほとりに工場を作り、製紙業を営みます。紙をつくるプロセスにおいて多くの水を必要とし、まだまだ水力が一般的だった当時、ドン川周辺は工場をつくるのに好都合の立地条件を整えていました。当時のトロントは人口が増えるとともに情報を欲しがる人々が新聞や本を好んで買い求め、印刷業とともに製紙業は街の成長産業の一つでした。生産拡大のためもともとあった工場に加え、新たな工場を買収したのが「York Paper Mill」で、現在もドンバレーを走るハイウエイから煙突が見える「Todmorden Mills」がそれです。

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ちょうど「Evergreen Brick Works」と「Todmorden Mills」はドン川をへだててほぼ向かい合ってるように建っていますが、当時彼らは偶然塀を作るために土を掘っているうちに、れんがを造るのにちょうどいい粘土質の地層があることを発見した、というのが彼をれんが造りへと向かわせるきっかけになったようです。

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製紙業で成功していた彼らは、1889年には「The Don Valley Pressed Brick Company」という名のれんが製造会社を作り、質の良いれんがの生産をはじめます。トロントに2度目の大火が襲った後には最大1日100万個のれんがを生産するほどの隆盛をきわめました。

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そのれんがは、ダウンタウンのオンタリオ州議事堂をはじめ、マーシー・ホールやオスグッド・ホールというトロントのランドマークとなる建物の建設に使われています。

現在では世界有数の都市に発展したトロントの成長に深く関わっている場所であることが、「Evergreen Brick Works」をたいへんユニークなものにしている2番目のポイントとなります。

この場所の歴史については、以下にまとめがあります(英語)。
http://www.evergreen.ca/get-involved/evergreen-brick-works/about/history/

「都会の中の公園」として、コミュニティに根づく新たな生き残りかた

隆盛をきわめたれんが工場も、時代の流れとともにすたれてゆき、1984年には操業を停止する運命となります。跡地の利用計画は変遷を経て、ダウンタウンの「Scotia Plaza」タワー建設によって生まれた大量の土砂で、掘り返された「Evergreen Brick Works」跡地を埋め返し、トロント市をはじめ公的機関の全面的なサポートのもと、この場所を保存することが決定します。

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計画の実施にあたっては「Evergreen」という非営利団体が作られ、跡地の再利用計画や実施にあたり積極的な活動が繰り広げられています。

ここ数年は施設の整備が進み、この場所の過去に渡る歴史がわかる展示を中心として、イベントを行うことができる多目的スペースや、展示ギャラリー、カフェ・スペースなどが次々とうまれ、活動の充実ぶりが際立っています。

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トロントの東側を南北に流れるドン川は、特に春夏秋冬の美しいドン川の水系の自然が体験でき、周辺の散策路やサイクリング・ロードの整備も徐々にすすみ、まさに「知る人ぞ知る」場所となりつつあります。

特に毎週土曜日と日曜日(夏季のみ)に、朝8時から午後1時まで行われる「Farmers’ Market」は人気。場所柄エコに気をつかった地元の新鮮な野菜などが手に入ります。トロントでは特に食に関して「sustainable(持続可能なこと)」がキーワードになりつつあります。大量生産、大量消費ではなく、地産地消で地元で季節に採れるものをおいしくいただく、という静かなブームが起きています。

トロントには「エディブル・トロント(http://www.edibletoronto.com)」など、健康的で、安全で、将来にわたって持続可能な食を考えるというコミュニティーがあります。「Evergreen Brick Works」ではこうしたローカルな食にも関わりを持ちつつ、カナダ・ファーストネーションズの暮らしに触れる、カナダの食の起源にさかのぼる教育活動にも取り組んでいます。

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オンタリオ州南部から五大湖の南側にかけての一体は、古くから「Woodland」と呼ばれる農作物が良く採れる地域。カナダに最初に住み着いたファーストネーションズの人々が狩猟生活から農耕生活へと変わる時、作物の主力となったのが「Three Sisters(三姉妹)」といって、「トウモロコシ」「豆」「スクワッシュ」でした。6月はそろそろオンタリオ州産地物のトウモロコシが出始め、イベントでも人気の食べ物ですが、実はカナダに人が住み始めたころからの「オリジナルな」食べ物のひとつ。

「Evergreen Brick Works」では、カナダ人でもなかなか知らない「三姉妹」にまつわるファーストネーションズの美しい物語を紹介しつつ地産地消を考えるというプログラムも行うなど、積極的にコミュニティーとの関わりを深めようとしています。
http://www.evergreen.ca/downloads/pdfs/BeanKeepers-ThreeSisters.pdf

「Evergreen Brick Works」への行き方

短い旅行期間中、「Evergreen Brick Works」とこのエリアの魅力を知り尽くすことは時間的に難しいかと思いますが、週末の午前中に行われるマーケットを見て、施設をひととおり回り、カフェでひと息つくだけでも良い体験になることでしょう。

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行き方は、ブロードビュー駅からは無料シャトルバスが運行しています。詳細は下記ウエブサイトをごらんください。
http://www.evergreen.ca/get-involved/evergreen-brick-works/visitor-info/getting-here/shuttle-bus

開館時間の詳細:
http://www.evergreen.ca/get-involved/evergreen-brick-works/visitor-info/